人間失格

Sinking deeper and deeper  私はとても低く沈んだ || 太宰治 人間失格 (18)

Sinking deeper and deeper  私はとても低く沈んだ || 太宰治 人間失格 (18)

松葉杖をカチッと鳴らして、彼女はキャビネットから薬の箱を取り出して、こう言いました。

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一箱もあげられません。 すぐに使い切ってしまいますよ。半分ね。  ケチだなあ。まあ、仕方がない。  帰ってすぐに注射を打つよ  痛くないの?  と、良子はおずおずと自分に問いかけた。  ええ、痛いです。でも、仕事の能率を上げるためには仕方ないわね。私、最近調子いいでしょ?  さあ、仕事だ。仕事、仕事、仕事!  働け、働け、働け、働け、働け、働け、働け、働け、働け、働け、働け、働け、働け、働け、働け、働け、働け、働け、働け、働け。  ある薬屋のドアを夜遅くノックしたことがある。寝間着を着て松葉杖をついた奥さんが出てくると、いきなり抱きしめてキスをして泣かせた。  彼女は黙って箱を手渡した。  化学薬品が焼酎と同じくらい、いやそれ以上に不潔であることを知った時、私はすでに完全な中毒者になっていた。まさに、恥知らずの極みであった。 私はこの薬品が欲しくてたまらなくなり、また春画の真似をし始め、薬屋の廃人女房と醜い情事までするようになった。
 死にたい、死にたい、もう取り返しがつかない、何をやってもダメになるだけだ、恥を増やすだけだ、自転車で青い滝を望んでも無理だ、恥ずかしい罪が増えるだけだ、苦悩がますます強まるだけだ。死にたい、死ななければならない、生きることは罪だ、そう思いながらも、半狂乱のままアパートとドラッグストアの間をトボトボと往復することしかできない。  いくら働いても薬の量は増えるばかりで、恐ろしい額の薬代を借りた。  地獄だ。 神の存在に賭けてもいいほどの強い決意で、故郷の父に自分の状況をすべて告白する長い手紙を書くことにした(女のことは書けなかったが)。

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神の存在に賭けてもいいほどの強い決意で、故郷の父に自分の状況をすべて告白する長い手紙を書くことにした(女のことは書けなかったが)。
 しかし、結果はまったくダメだった。待てども待てども返事はなく、焦りと不安から薬の量を増やしてしまった。  今夜は、一度に十本も注射して、大河に飛び込んでやろうと密かに決心していた。  喀血(かっけつ)したそうですね  堀木は私の前にあぐらをかいて座り、今まで見たこともないような優しい笑みを浮かべた。その優しい笑顔がありがたくて嬉しくて、私は顔を背けて涙を流した。  車に乗せられました。 ひらめは、沈痛な口調で、とにかく入院したほうがいい、あとは自分たちでなんとかするからとアドバイスしてくれ、私はただその命令に従い、まるで自分の意志も判断力もないかのように、泣きじゃくりながら、その場に立ち尽くしていました。 私は意志も判断力もない人間だったのだ。良子さんを含めた4人は、ずっと車に乗っていて、暗くなった頃に森の中にある大きな病院の入り口に着きました。 療養所かと思った。
 若い医者に診てもらったが、とても物腰が柔らかくて、「まあ、しばらくここで休んでいきなさい」と言われた。  そうか、しばらくここにいるんだな。  彼女は予備の衣服が入った風呂敷包みを私に手渡すと、黙って帯の間から注射器と飲み残しの薬を出してきた。ただの殺精子剤とでも思ったのだろうか。  いや、もう必要ない。  という、なんとも珍妙なものであった。頼まれて薬を断ったのは、この時だけといっても過言ではない。断れば、二度と修復できない白い亀裂が入るのではと、心も自分の心も脅かされていた。しかし、その時、私は半狂乱になって求めていたモルヒネを自然に拒否したのである。良子さんの言葉  私は神のような無知に撃たれたのだろうか。

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良子さんの言葉  私は神のような無知に撃たれたのだろうか。 その瞬間、私はもう中毒者ではなくなっていた。 しかし、その直後、苦笑いを浮かべた若い医師に案内された病棟では、ドアがバタンと閉められ、鍵が開けられた。 そこは脳病院だった。 ジアスを飲んだ時に作った「女のいないところへ行こう」という私の愚かな夢は、実に奇妙な形で実現したのである。 病棟は男の精神異常者ばかりで、看護婦も男で、女はいなかった。  今や私は罪人ではなく、狂人であった。いや、私は全然狂っていなかった。一瞬たりとも狂ったことはなかった。 しかし、ああ、狂人とはそういうものなのだ。 つまり、この病院に入れられた人は狂人で、この病院に入れられなかった人は正常だったのだ。  私は神に問う。無抵抗は罪なのでしょうか?  私は堀木の神秘的で美しい笑顔を聞いて涙を流し、自分の判断や抵抗を忘れて車に乗り込み、ここに連れてこられ、今、狂人と呼ばれているのです。今ここから出ても、私の額には狂人、いや病人の印が押されたままである。  私は人間失格なのだ。  私はもう人間ではないのだ。  ここに来たのは初夏で、鉄格子の窓から病院の庭にある小さな池に赤い睡蓮が咲いているのが見えた。心配しないでください」と、真剣かつ緊張した口調で言った。  私は、目の前に故郷の山河が見えるような気がして、思わずうなずいてしまった。  本当に不自由な人だった。  父が死んだと知った時、私は気が遠くなるような思いがした。父がいなくなり、私の心から離れなかったあの懐かしくも恐ろしい存在がいなくなり、私の苦悩の壺が空っぽになったような気がしたのです。自分の苦悩の壺が空っぽになったような気がした。 私の苦悩の壺がこんなに重いのは、父のせいではないかとさえ思った。 まるで、緊張感を失ったかのようでした。 苦悩する力さえも失ってしまった。  長兄は、私のために約束したことを忠実に実行してくれたのです。

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長兄は、私のために約束したことを忠実に実行してくれたのです。 私が生まれ育った町から電車で4、5時間南に行ったところに、東北地方としては珍しく暖かい海辺の温泉地があった。 壁がはがれ、柱は虫に食われ、ほとんど修理もできないようなとても古い家を買って、60歳近い醜い赤毛の女中と一緒に私にくれたのである。  あれから三年余り、その間、私は老女中のテツに何度か犯され、時々喧嘩もし、乳房の病気は上下し、痩せて太り、痰がからむようになった。その彼が、いつもの箱とは違うカルモチンを買ってきた。本人は特に気にせず、寝る前に10錠飲んでも、全く眠くならない。不審に思って薬箱をよく見ると、ヘノモチンという下剤であった。  湯たんぽをお腹に乗せて仰向けに寝ながら、哲にあることを伝えることにした。  これはカルモチンではない。ヘノモチンというものだ。  これはカルモチンではなく、ヘノモチンです、と言いかけたら、彼は笑った。