宇宙爆撃

それは、生きている間のコミュニケーションは || 蘭郁二郎 宇宙爆撃

それは、生きている間のコミュニケーションは || 蘭郁二郎 宇宙爆撃

I ディレクターズプレゼンテーションが終わると、文字通りの拍手喝采が起こった。

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その中で、ただ一人、木曽禮次郎だけは、拍手もせず、笑顔もせず、呆然と立ち尽くしたままであった。
 おい、木曽君  肩を叩かれたので、中庭に集まっていた職員がほとんどいなくなったことに気がついた。もちろん、壇上の老監督もいつの間にか姿を消していた。  どうしたんだ、そんな間抜けな顔して!  …… いやだ!  ははは、腐ってるんだな、わかるよ、腐るなよ、腐るなよ。  あ、なんでもない。  ハァハァ、それでいい、希望を持て、希望を持て–何も今回だけではない、さあ、お前も行けよ  永田は彼の肩を叩き、慰めるような目で木曽の顔を覗き込んだ。木曽はその目から目をそらした。  そういう意味じゃないんだ。  そんなに行きたいなら、所長に報告すればいいじゃないか、イムはすぐに報告する。  ふむふむ……そうですか。  あなたの分も申告しておきましょう。  いや、結構だ。  木曽は勢いよく首を振り、思い出したかのように歩き出した。  –大丈夫、自分のことは自分でやるから。  木曽は、研究所の中庭にあるトルコギキョウが咲いているコンクリートの池の周りを歩き、自分の部屋へ戻っていった。木曽は、親切にしてくれた永田に申し訳ないと思いつつも、疲れ果てて声をかける気にもなれなかった。一人になって目をつぶりたかったのだ。  研究室は閑散としていて、まだ誰も帰っていない。研究室は閑散としていて、まだ誰も帰っていない。役員の発表で、研究所のスタッフがあちこちに集まってきて、噂を流したのだろう。 おそらく今日一日、誰も仕事をすることができないだろう。 木曽は、誰もいない研究室を横目で見ながら、頬を歪めて通り抜けた。そして、隣の自室のドアを破って、机の前の回転椅子に腰を下ろした。机に肘をつき、両手で頭を抱え、目を閉じた。外の庭で事務員が話している声がくぐもった声で聞こえてきた。

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あの、木曽さん、どうしたんですか?  え?  誰もいないと思っていた木曽は、突然の声に驚いて振り向いた。
 具合はどうですか、……。  そう言って、少し首をかしげ、薄く顔をしかめて立っていたのは、まさかの助手の石井美智子であった。 なんだ、そこにいたのか、石井さん、……、今の監督の話、聞いてたのか?  え?  あ、そうだ、石井さんが行くんだったね。  私なんかでいいのかなあ。……、行くのは残念だけど、そんなこと言ってられないよ。  ……でも、木曽さんがいないんですけど、どうしたんでしょう?  まあ、私は……よそ者だから、私の分まで来てもらわないとね。ちょっと出張に行くんじゃなくて、功績のために骨を埋めるつもりで行ってほしいって、監督が言ってたんだ。  木曽は初めて笑ったが、虚ろな声だった。              二人です。  しかし、まさかボルネオが俺–。なぜ、この研究所の半分近くをボルネオに移したんだろう?  石井美智子は白衣を着ると、足を伸ばして椅子に座った。女子校を卒業してまだ数年の美智子には、磁気研究所木曽研究所の助手という肩書きが似合わないのか、襟元にまだ子供っぽい色が残っていた。実際に助手をやっていたのは道子の兄の良一だが、2年前に兵役に入ってから出入りが激しくなったので、木曽の学校を卒業したばかりの道子は、研究所のいろいろなことを手伝いに来て、いつのまにかすべての実験のやり方を覚えていた。彼女は今、助手としてかなり人気がある。  先ほど所長が言ったように、このような磁気実験室は、少なくとも地球の磁力の影響が少しでもあるところにあるべきですが、地球上で地球の磁力が作用しないところはありません。ご存知のように、棒磁石があれば、棒磁石の両端が最も磁力が強く、棒磁石の両端に比べ、中央はほとんど磁力がなく、両者は釣り合っています。もちろん、地球の北極と南極は、地図上の極の位置と違って、一年中ふらふらしているので、–ちょうど、くるくる回るこまの先がうまく止まらないように–地図上の極と同じ位置にあるわけではありません。ですから、赤道は常に中心にあるわけではありませんが、このあたりよりはずっとバランスがとれています。

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東京とそんなに違うんですか?  いや、まず、東京を針が止まっている側から見ると、北を向いている方は平らではなく下がっているはずです。 東京は北極に近く、南極からは離れているので、北極の余計な力を受けることになり、これは北に行けば行くほど悪くなるのです。北に行けば行くほど悪くなり、北極に行けば行くほど、磁石針の針は北を下にして突き出さなければならない–まあ、これは乱暴な例ですが、とにかく磁石針でさえ地球の磁力の違いがはっきりわかるような場所で、だから我々の実験も地球の磁力の影響を受けているのです。  石井道子の真剣な顔を見て、木曽も思わず微笑んだ。  木曽は、以前からこのボルネオ島の調査出張所について所長から内々に相談を受けており、出張所への人選の計画書まで作っていたのである。これには、木曽も唖然とした。一瞬、自分だけが取り残されたような強烈な落胆に襲われたのだ。  木曽は、新設されたボルネオ支社で頑張りたいという気持ちが強かった。 そのために、研究室から優秀な人材を選んできたつもりだったが、見事に裏切られた。 木曽は、中庭を横切って自室に戻ると、まるで夢を見ているような気分になった。研究所での仕事が終わったような気がした。  しかし、石井美智子の前では、ひどく取り乱す様子も見せず、何とか平静を保っていた。むしろ、それが顔に出ていたのだろう。  突然のボルネオ行きの誘いに舞い上がっていたミチコは、単に気がつかなかっただけかもしれない。そして、親友の良一によく似た美智子が、いつになく明るい顔をしているのを見て、木曽はようやく冷静さを取り戻し、自然に微笑むまでになったのである。

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木曽さん、所長がお呼びです。
 慌てて入ってきた助手の村尾健治がドアを開け、いつになく明るい声で言った。  あ、はい。村尾君もボルネオに行くんでしょう?  おかげさまで……。  村尾も、どう我慢しても口から出てきそうな笑顔で震えていた。  まあ、石井さんも頑張って、行ってらっしゃい、よろしくお願いしますよ。 あ、あの、……。
 あははは  笑いながら頬を引きつり、木曽は慌てて立ち上がる。そして顔を外側に向け、ドアを潜り抜けた。              三人です。  –ボルネオ支社開設のためにいろいろ手配してくれてありがたいが、ここに立ち寄るからといって、そんなふうに受け取らないでほしい、と永田も不満げに言った。例えば、永田は自分が参加しないことに不満があるようだったが、「研究室を空っぽにして、みんなを支社に送るのはどうだろうか」。  老いた部長は、窓から差し込む陽光に銀色の髪を輝かせながら、そんなふうに話していた。  –支社はあくまでも支社で、優秀な者はそこに行くのが当然だが、だからといって全員がそこに行くのはおかしい、いくら湘南島が便利だからといって、そこに東京を移すわけにはいかないのと同じである。そのために、あなたや永田さんのような方を研究所に派遣してはどうでしょうか。