……どうしたの、花代ちゃん? お父さん早く来て、……」娘たちの声は震えていた。
お城の使用人が怪我をして倒れています。 どこにいるんだ?
そこの栗の木立の中です。
わかった、すぐに行く……。親助は、「お前も来い」と言って飛び出すと、すぐに妻も出て行った。
人に気づかれないように、と彼らはささやいた。
花代、外に気をつけろというささやきを聞きながら、敏江は静かに口の中でお経を唱え、経蔵で感じたような言い知れぬ怒りを感じ、それを抑えてお経を唱えることに集中した。その日の夜半までに、そんな傷病者が3人運ばれてきた。まだ眠っていた敏江には、それがすべて忍城のものなのか、それとも敵のものもあるのか分からなかったが、七兵衛をはじめとする一族が全力で彼らを介抱する声がはっきりと聞こえてきた。そのため、このようなことが起こるのであろう。
……少ししみるので、我慢してください、止血しますから。
…………
すぐに良くなると思いますので、心配しないでお休みください。後で温かいお粥をあげますから。……若い母親が病気の子供をいたわるような、心のこもった温かい言葉を聞いたとき、私は助け出されたときの柔らかい手の感触を思い出した。 もう二度と会うことはないだろうと思っていた。その時、私は、“もう二度と会えない “と思ったのです」「そうなんです。 もう夜が明けて、障子には朝の清々しい光が差し込んでいた。
しかし、そんな人はいないので、花代の声であった。
馬鹿なことを言うな、俺は訴える相手がいるから来たんだ、邪魔をするな。
奥に病人がいるんです、お待ちください、あれ、……父親同士の喧嘩は門前払い、面倒なので踏み込んで家捜しした。
奥に病人がいるんです、お待ちください、あれ、……父親同士の喧嘩は門前払い、面倒なので踏み込んで家捜しした。
手早く法衣を身につけ、数珠を手に襖を開け、押入れから出てくると、ちょうど押しかけてきた3人の鎧武者とぶつかった。 二人ともまさか顔を合わせるとは思ってもいなかったが、そのとたん、敏江は彼らに向かって、とんでもないことを言うのである。
その圧倒的な声のトーンに驚いた。
なんだ……と言われましたが、相手がお坊さんなので、暴力を振るうわけにもいきません。
この家が逃亡者をかくまっていると聞いて視察に来たのですが、大家が邪魔をするので踏み込んだだけです。
敏江は、聞き違いでしょう、と平然と言った。
怪我人が数人いましたが、忍城の侍か寄席の武士か分かりませんし、放っておけば死んでしまうから助けただけです。
城の兵であれば、負傷者であっても検分するのが我々の務めである。
よろしい、……彼はやや不敵な笑みを浮かべながら頷いた。 それがあなたの役目なら、どうぞ検査をしてください、ただし、手を出さないように気をつけてください。
…………
ご覧の通り、私は仏の下僕であり、僧侶に敵も味方もありません。このまま非道なことをすれば、臨済宗の五ヶ寺を敵に回すことになる。…… 三人の武士は言葉に詰まったようだった。 三人の武士は言葉に詰まった。
一人が「ちょっと見てくる」と言って、憤懣やるかたない顔で奥の部屋へ入っていった。
…… そうだな、全員重傷のようだ、槍を持った戦士が不機嫌そうに呟くと、次の者が
動けないのなら、そのままにしておけばいい、と。
…… そうだな、全員重傷のようだ、槍を持った戦士が不機嫌そうに呟くと、次の者が
動けないのなら、そのままにしておけばいい、と。
そうだ、倒れた人が隠れてさえいなければ ……。そして、お互いに謝るように、最初に来たときとは別人のように、静かに出て行った。 家人たちはその一部始終を震えながら見ていたが、三人が去ると、花世が突然敏江のもとに駆け寄った。
敏江様、ありがとうございます、皆の命を救って下さいました。
死ぬかと思いました。
これからも怪我人が出るでしょうし、この家では全員を看取ることはできませんから・・・。
まあ、私達は狭くて動きにくいので、不便ではありますが、喜んでそうさせて頂きます。
村の女たちを集めてくるよ。 …… この渦に巻き込まれてはいけない、と敏江は思い、自ら渦の中に飛び込んでいった。 中にはパラシュートで運ばれてくる者もいたが、運び込まれるや否や、敵味方の区別がつかないように鎧を剥ぎ取られ、敏江が上に立って命令しているので、石田軍もどうすることもできず、それどころか、多少の護衛をするようにさえなった。そうこうしているうちに、戦いは包囲戦になりつつあった。七。
忍城はよく戦った 忍城はよく戦われた。館林では、三千余騎が合流したが、わずか三日しか持たなかった。七兵衛の言うように、老若男女も竹槍や米を持って城内に入り、外の者も城内と連絡を密にして、ひそかによってたかって心配した。石田軍は勢いよく攻めてきますが、城兵はそれを引きつけて矢を放ち、あるいは不意に切り捨てて四方八方に暴れまわりました。 6月中旬のある夜、花世は彼のもとにやってきて、そっとこうささやいた。
6月中旬のある夜、花世は彼のもとにやってきて、そっとこうささやいた。
……お騒がせしました、ちょっと外に出てください」敏江はうなずいて歩き出した。 ……星一つ見えない暗い夜で、ヨリデス陣営の周りに低く垂れ込めた雲が篝火の光で明るく染まっていたが、戦場に近いとは思えないほど静かで静寂に包まれていた。 何人いたのだろう・・・・・・。
二人は無言で歩いた。花代の若々しい息遣いを聞きながら、敏江は危うく助かったあの夜のこと、そして今日までの娘たちの苦労を思い浮かべていた。 重傷で倒れていた人を真っ先に助けたのも花代で、見つかればどんな罪に問われるかもしれないのに、躊躇なく助けに来て介抱したのだ。 哲学は事実を否定するところにその高みを見いだし、仏教理論は慈悲について高らかに宣言するが、目の前の事実を前にして初めて権力に屈服する。
……花陽ちゃん、自慢の娘さんです
少女が驚いたように振り向くと、敏江はもう一度、どういうことですか、と言った。 本当に頭が下がります、と彼女は言った。
人間がみんな、あなたのような人であればいいのですが ……
翌日、一家は七兵衛の家の裏の栗林に案内されたが、そこには七兵衛とナツとその妻、それに村人10人ほどが、盛ったばかりの土饅頭の周りに静かに立ち、みな無言であった。下草の虫の音に混じって、数珠を擦る音や低い読経の声が聞こえ、森の静けさの中で敏江が唱える声は、まるで身の毛もよだつ幽霊の慟哭のようであった。村人たちもそっとついてくるようになり、見ず知らずの人たちのためとはいえ、その法要は半時も続きました。
数日後、敏江は行田の森で城兵が20人ほど殺されたことを知った。
数日後、敏江は行田の森で城兵が20人ほど殺されたことを知った。 昼間のことで、第三木戸から飛び出し、湯殿を構えていたヨリト族の陣営に、互いに目もくれず斬り込んできたのだそうだ。これを聞いて、彼はすぐさま寺を後にした。勿論、お参りするつもりであったが、それとは別に行かざるを得ないものがあった。それは、心の底からわき上がってくる、あのわけのわからない怒りであり、それが今また彼をしっかりと捕らえていた。行田の森は城の南側にあり、昌平寺から寄手の陣を回り込む必要があるので、着いた時はすでに黄昏時であった。彼は法衣をかき回し、数珠を取り出し、聖域に行くように森の中に入っていった。まず、死者が出ていないか見回った。 見回すまでもなく、死体はすぐに見つかった。杉の巨木の根元、下草がまばらに生えた土の上、ヒコバエの葉の群れの陰に、ここに一人、あそこに二人と横たわっていた。ある者は横顔を草に埋め、ある者は目を見開いて仰向けに死に、ある者は片腕を失い、ある者は脚を失い、ある者は首を失い、等々であった。腕がないもの、足がないもの、首がないもの、胴体がないものなど、さまざまな死体があった。 敏江は、そのうちの三人、五人を供養し、心をこめて仏の名を唱えた。 十七人を数えたところで、湿った大地に伏し、草の跡形もなく千切れた鎧を着て、鋸のような刃の刀を持った武士の前に立ちはだかった。 すばやく周囲を見渡すと、その武士はまだかすかに息をしており、気配がないのを確認してから、彼のもとに歩み寄った。